伝奇集 (岩波文庫)
「伝奇集 (岩波文庫)」のレビュー・感想

【破局しているのは確かだが、決して破滅はしない。】
モザイクのごとく入り組んだ一冊。圧倒的な想像力と、読者を幻惑させるトリックの数々には舌を巻くばかり。そして、この作品の
底流に流れているのは間違いなく作者ボルヘスの文学・哲学・神学に通じた博識さだろう。
表面上は前衛的・実験的でありながら、諦観の側面では完成してしまっているこの一冊に触れると、文学の持つ無限の可能性、
飽くことのない哲学の追求、宗教の持つ美しさと胡散臭さを突きつけられる想いだ。
「トレーン、ウクバール、オルビス・テルティウス」での発熱するような知的好奇心...
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【記憶の人・フネス】
ボルヘスは難解だ。いや難解と言うより、作品自体の言いたいことがわからないときが多い。これは多分に読み手の無知に由来すると思ってみよう。この『伝記集』もこの20年来、版を変え訳者を変えて何度か読み返しているが、わからないものが少なくない。
本書中、やはり印象に残るのが「記憶の人・フネス」だ。フネスはほとんど世界文学界の象徴的登場人物、ラスコーリニコフやスタヴローギン、バートルビーやエイハブらに匹敵する存在感を示している。これを読むだけでも本書の価値はあろう。フネスは異常なる記憶力を持...

【膨大な書物の館の、短い物語。】
@神秘主義者たちの描く宇宙のかたち。
A危機に直面する人々の脳裏にひらめく人生訓。
ボルヘスの文章には、@とAが端から端まで敷き詰められています。これらが軽く流せる人でないと、この人の文章の本意を汲むことは難しいでしょう。
「作家のための作家」と呼ばれた所以です。
彼の書く、感傷にひたる暇もない簡潔な文体はチェスタトン的で、読むのに少々骨が折れます。彼の描く世界は広大無辺でありながら、自壊する運命をも内包しており、実に複雑なのですが、ボルヘスは物語の骨子を「膨大...

【比類なき一壺天の数々】
◆「死とコンパス」
美しい法則性に耽溺し、自らの推理に自己陶酔する名探偵エリック・レンロットが、
その性質を利用され、レッド・シャルラッハの仕掛けた罠に落ちてしまうという、
《後期クイーン的問題》を先取りした小品。
美しく抽象的な論理操作に淫した探偵が、世界の抽象化を押し進めた
先に待っていたのは、みずからの破滅であったという皮肉な構図――。
クイーンよりも早く、軽々とこの境地に到達したボルヘスの先見性には...
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